恐れず侮らず

英語の勉強を始めましょう

「貧乏暇なし」を英訳すると(その2)

「その1」では、具体的な用例からニュアンスを考察したが、これは意味の流用である。「よく『貧乏暇なし』って言うじゃないですか、アレですよ」と使うわけで、ではその「アレ」に相当する本来の意味はなんだろうか。

自然に考えると、長時間働けば収入(売上げ)が増え、働かなければ減る。企業では、製品やサービスに人気があって、問い合わせや受注が増えれば、製造も、販売も、サポートもみんなが忙しい思いをするが、当然、その分売上げも増える。個人商店やフリーランスの人も同様だろう。会社員だと、一時的に忙しくなっても個人の収入には直結しないかも知れないが、時給のアルバイトであれば勤務時間と収入は比例する。だから「稼ぐに追いつく貧乏なし」という言葉も生まれた。

ただし、これとは逆の現象が起きることもある。あるフリーランスの人が、一週間で5万円の報酬のプロジェクトと、四週間で30万円のプロジェクトと、どちらを選ぶか考えてみよう。報酬は、プロジェクト終了後に支払われ、両方同時に選ぶことはできないとする。費用面だけみても後者の方が割がいいし、大きなプロジェクトの方が人脈ができやすいとか、社会的影響力が大きいとか、メリットが多いから、後者を選びたいところだ。だがもしお金に困っていて、当座の生活費が一〜二週間分しかなかったとすれば、早くお金がもらえる前者を選ばざるを得ない。そうすると、たくさんのプロジェクトを次々に受ける必要がある上、そうした仕事を「取ってくる」手間や請求処理などの事務仕事にもより時間を割く必要があり、結果、収入の割に非常に忙しい思いをすることになる。

企業にしても、運転資金に余裕がないと、すぐに売上げに結びつく業務にリソースを集中させざるを得ず、成果が出るのに時間のかかる製品開発やマーケティング活動、社員教育、業務の環境改善といったことは後回しになりやすい。しかしそれでは、競争力のある魅力的な商品を生み出すことは難しいし、業務効率も悪く、モチベーションもあがらず、そのため、常にみんなが忙しい思いをしているのに、利益がさっぱり上がらない、という状況に往々にして陥りやすい。

「貧乏暇なし」というのは、こうした状況に対する警句ではないか。貧乏になると、たくさん仕事をしないと生活できないから、忙しい。忙しくしていても、仕事の進め方や仕事の質が悪ければ、貧乏のまま。負のスパイラルから抜け出すのは簡単ではないけれど、そうであることを意識して、改善の努力をしないと、いつまでも変わらないと、そういう気持ちが込められているのではないか。

忙しくて時間がないと、当然、休暇を取る時間はなく趣味に没頭することもできない。英語圏の人にとって、一定の余暇を確保することは重要で、それすら削らなければいけない状況というのは大きな問題なのかも知れないが、日本人のメンタリティとして、余暇がない(少ない)ことはあまり問題視されていない気がする。それよりも、仕事を見直したり、時間のかかる業務にじっくり取り組んだりする時間がないことが問題なのだと思う。

そんなわけで、‘A poor man has no time for leisure.’のfor leisureに違和感を覚えるのだ。(続きます)