恐れず侮らず

英語の勉強を始めましょう

「貧乏暇なし」を英訳すると(その1)

たまたまある本を読んでいて、「貧乏暇なし」の英訳として‘A poor man has no time for leisure.’があげられていて、疑問に感じたのでアルクさんに当たってみると、‘A poor man has no time for leisure.’あるいは‘Poor men have no time for leisure.’‘The poor have no leisure.’という表現は実際にあるようだ。とすると、英語の表現としてはおかしくないのだろうが、その訳を「貧乏暇なし」とするのは、当を得ているとはいえないのではないか。

それを説明するため、まず「貧乏暇なし」の意味を確認しようと思ったのだが、ちょっとネットを検索した限りでは信頼に足ると思われる説明が見つからなかった。そこで、自分で考察してみることにする。

諺というのは、文章ではともかくとして、日常生活でそうそう口にするものではない。が、「貧乏暇なし」は比較的よく使われる部類ではないかと思う。

世間話をする時に、「仕事はお忙しいですか」「そうですね、忙しいですね」「忙しいのは結構ですね。暇だったら困りますからね。では業績も順調で」というようなやりとりになることがとても多いが、こうした時「はい、儲かってます。前回のボーナスも私が入社以来最高の……」と答える人はいない(たとえそれが事実だとしても)。「とんでもない。貧乏暇なしってやつですよ」などとと答えるのが普通である。

儲かっていると思われると、僻み、妬みの対象にされかねないため、儲かっていないと言うわけである。これは謙譲表現の一種だといえる。

また、相手が取引先の人だった場合、こちらの財政状態がいいとわかれば、相手が買う立場の場合は値引きを要求されたり、相手が売る立場の場合はもっとたくさん買えと言われかねないため、お金がないと防衛線を張る意味もある。ついでにいえば、忙しいことを強調することによって、暗に「余計な雑用を押し付けないでくださいよ」と牽制する意味もあろう。

これは個人対個人、たとえば近所の人や、親戚の人や、買い物に行った先の顔見知りの店員さんなどとの会話においても全く同じ状況が成立する。もちろん、本当に親しい間柄であれば正直に話もするだろうが、社交辞令としては「忙しい」「お金がない」ということにしておくのは一般的ではないか。

つまり「忙しい」のは「抱えている仕事のすべてをきちんとこなす余裕がない」という意味であって、「遊ぶ暇がない」という意味ではないのだ。A poor man has no time.ならいいけれど、for leisureがついてしまうと、「貧乏暇なし」とはかなりニュアンスの違う表現になってしまう。