前口上
何の因果か海外出張に出かけることになった。*1
目的は、ラスベガスで行われるCOMDEX(世界最大規模のハイテク産業の見本市)*2の見学、カリフォルニアにある取引先との契約条件の見直しの交渉、また日本では入手困難ないくつかの部品を仕入れてくること。その他。
コンピュータ・メーカーに勤務しているので、合衆国での動向を探り、現地の取引先との関係を深めることが日々重要度を増しているのは事実である。
しかし、自慢じゃないが、僕は生れてこのかた海外に出かけたことはただの一度もない。別にナショナリストというわけではなく、むしろ海外への憧れはずいぶん以前からあったのだが、縁がないままこの年齢になってしまったというわけだ。
そんな僕が、通訳もコンダクターもつかず、パック旅行でもない、いやレクリエーション旅行でもない、ビジネス出張に、ひとりで出かけることになったのである。
さらに、全く自慢じゃないが、僕は英語はてんでダメである。中学・高校では一応まじめに勉強したが、多くの例に漏れず、大学入試後は勉強していないから力は落ちる一方。だいたい僕はネイティブ・スピーカーと英語で話をした経験は一度しかないのだ。今回の出張に際してホテルを予約するのも「そのくらい自分でやれ」と言われていたにも関わらず、多忙を理由に総務の英語が堪能な女性に頼んでやってもらったくらいだ。*3
そんな僕が、ひとりで出かけることになってしまったのである。成果をあげてこられるだろうか。そもそも現地までちゃんとたどりつけるのか。言葉の通じぬ異国の地で、迷子になったらどうすればいいのか。
いったい何故こんな羽目に陥ったのか、といえば、僕が自分で「行かせてください」とお願いしたからなので、言っちゃナンだが、たいしたものだと思う。が、そんな僕に気軽に出張を命じた会社も、いい度胸していると言わざるを得ない。
とにかく、無事に行って帰ってきた。
なんとかなるもんである。実は今、結構強気になっている。妻には「今度一緒にアメリカへ行くことになったら、オレが通訳をやってやる」と威張り、会社では「チョロイもんですよ」などと吹聴している。
しかし、現地では戸惑いとちょんぼの連続だった。今だから笑い話だが、実はその時はとても心細かったのだ。そのことを今、告白しておこう。