「ラジオ英会話」Lesson 182は、アンドロイドのジーニーとフランキーの会話である。ジーニーの壊れたネックレスをフランキーが直し、褒めるジーニーに対して、フランキーが「僕は孤独だ、友だちがいない」と嘆く。「私がいるでしょ」と言うジーニーにフランキーは「君は彼女だ」と言って、次のように続ける。
Frankie: I need other friends. I want to talk about other things.
Jeannie: Such as?
Frankie: I don't know. Anything other than fashion accessories.
Jeannie: Sure. Be my guest.
テキストでは次のように訳されている。
フランキー: 僕には別の友だちも必要なんだ。何か別の話もしたいからね
ジーニー: 例えばどんな?
フランキー: そうだなあ。流行のアクセサリー以外のことなら何でもいいよ
ジーニー: いいわ。ご遠慮なく
最後の一文、Be my guest.は「お好きにどうぞ」「ご遠慮なく」の意の成句だが、ジーニーは何を「ご遠慮なく」どうぞと言っているのか。サッカーでもバイクでも、お好きな話をどうぞ、という意味に解して疑問を感じなかったが、ほかの聴取者の中には「男友だちを作っていいわよ」という意味だととらえた人が複数いたようだ。
異なる解釈が出てくるのはなかなか面白い。それで、どういう意味だと解するのが妥当か、じっくり読み直してみた。
まず、フランキーの本音は、ジーニー以外の友だちを作りたいのではなく、アクセサリーの話を止めたいのだろう。要は、最近ジーニーがアクセサリーの話ばかりするのにうんざりしているのだ。だから、アクセサリー以外の話がしたい。それを受けてジーニーは、どうぞ、どんな話題でも付き合うわよ、と答えていると取るのが自然だと考える。
また、フランキーは別にジーニーに遠慮して、男友だちを作らないわけではない。他の友だちがいたらいいな、という気持ちも嘘ではないかも知れないが、それは叶わぬ願いだ。だってアンドロイドはジーニーとフランキーの二体しかこの世界にはいないんだから。友だちのことを意味すると取るなら、「作れるものなら作ってごらんなさいよ」という嫌味になってしまう。ジーニーは気は強いが、嫌味な人間ではないはずだ。おっと、人間ではなかった。
フランケンシュタイン博士は、ジーニーが一人では寂しかろうと、ジーニーの友だちとしてフランキーを作った。その経緯を考えると、博士に頼んでフランキーの友だちを作ってもらうことは、可能性としてはあり得る。ただ、博士は、ジーニーの頼みならば何とかしてくれるだろうが、フランキーの頼みをいそいそ聞くとは思えない。ジーニーは、自分とフランキーに対する博士の気持ちの差を知っているので(Lesson 102)、その上で言っているとするなら、「遠慮なく博士に頼んでいいわよ、でも聞いてくれるかしら」と、やはり嫌味になってしまう。
ところで、彼女あるいは妻のアクセサリーや衣服の話にうんざりしているのは、フランキーに限らず多くの男性に共通する悩みではないかと思うのだが、アクセサリーの話が嫌だとして、では何の話ならフランキーは興味があるのか。実は、私は、フランキーは自分から振れる話題を持っていないだろうと見ている。ジーニーの言うことにあれこれ論評するけれども、フランキー自身が興味を持って追いかけていることはないように思う。実際、ジーニーが、何の話がしたいのかと訊いても「I don't know. Anything other than fashion accessories.」としか答えられていない。ここで「サッカーの話をしよう、ワールドカップを振り返って、あのPK戦」などと話ができれば、ジーニーはフランキーに惚れ直すと思うが、恐らくできない。そして、そのことをジーニーは見透かしていると思う。
その上で「どんな話でもどうぞ」と言っているのは、やはり嫌味かな。でもそれは、「君のアクセの話はうんざりなんだよ」と言ってきたフランキーへの、ささやかな意趣返しというものだろう。